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徳島地方裁判所 平成8年(わ)60号 判決

裁判所書記官

高見恵子

被告人

1

法人名 株式会社四国車体

代表者名

代表取締役 井上清臣

本店所在地

徳島県板野郡北島町太郎八須字新開五番地の四

2

氏名 井上清臣

年齢

昭和一六年九月二八日生

本籍

徳島県板野郡北島町鯛浜字西ノ須一三番地の七

住所

右同

職業

会社役員

検察官

山本真千子

弁護人

真鍋忠敬(私選)

主文

被告人井上清臣を懲役一年に処する。

被告人株式会社四国車体を罰金一五〇〇万円に処する。

被告人井上清臣に対し、この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(犯罪事実)

被告人株式会社四国車体は、徳島県板野郡北島町太郎八須字新開五番地の四に本店を置き、各種自動車の車体及び部品の製造、組立て、修理等を営むもの、被告人井上清臣は、同会社の代表取締役として、その業務全般を統括するものであるが、被告人井上清臣は、同会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、

第一  平成三年五月一日から同四年四月三〇日までの事業年度における被告人会社の実際の所得金額は、七二七〇万六九七五円であり、これに対する法人税額が、二六五〇万四七〇〇円であったにもかかわらず、売上げの一部を公表計上せずに経理上除外するなどの行為により、その所得金額のうち六九九〇万九四三九円を秘匿した上、平成四年六月三〇日、徳島県鳴門市撫養町南浜字東浜三九番地の三所在の所轄鳴門税務署において、同税務署長に対し、同事業年度の所得金額が二七九万七五三六円であり、これに対する法人税額が七八万三一〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって右不正行為により、同事業年度の正規の法人税額と右申告税額との差額二五七二万一六〇〇円を免れ

第二  同四年五月一日から同五年四月三〇日までの事業年度における被告人会社の実際の所得金額は二六二六万四五五円であり、これに対する法人税額は、九〇八万七五〇〇円であったにもかかわらず、前同様の行為により、その所得金額全額を秘匿した上、平成五年六月三〇日、前記鳴門税務署において、同税務署長に対し、同事業年度の欠損金額が三〇四一万九二八円で、納付すべき法人税がない旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって右不正行為により、同事業年度の法人税九〇八万七五〇〇円を免れ

第三  同五年五月一日から同六年四月三〇日までの事業年度における被告人会社の実際の所得金額は四一一四万二五三〇円であり、これに対する法人税額が、一四六六万一二〇〇円であったにもかかわらず、前同様の行為により、その所得金額全額を秘匿した上、平成六年六月三〇日、前記鳴門税務署において、同税務署長に対し、同事業年度の所得金額が零円であり、納付すべき法人税がない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、右不正行為により、同事業年度の法人税一四六六万一二〇〇円を免れ

たものである。

(証拠)

(括弧内の番号は、証拠等関係カードの検察官請求証拠番号を示す。)

判示全部の事実について

1  被告人及び被告人会社代表者井上清臣(以下単に「被告人井上」という。)の

(1)  公判供述

(2)  検察官調書(49)

(3)  大蔵事務官に対する質問てん末書九通(39ないし47)

2  井上ツネ子の

(1)  検察官調書二通(33、34)

(2)  大蔵事務官に対する質問てん末書九通(24ないし32)

3  秋田文行、岸口伸司の大蔵事務官に対する各質問てん末書(35、36)

4  商業登録簿謄本(7)

5  捜査報告書(37)

6  売上高調査書(8)

7  売上値引戻高調査書(9)

8  材料仕入高調査書(10)

9  運賃調査書(11)

10  減価償却費(製造原価)調査書(12)

11  減価償却費(一般管理費)調査書(13)

12  租税公課調査書(14)

13  受取利息調査書(15)

14  受取配当調査書(16)

15  支払手数料調査書(17)

16  有価証券売却損調査書(18)

17  固定資産売却損調査書(19)

18  損金算入利子割額調査書(20)

19  事業税調査書(21)

20  電話聴取書(38)

判示第一の事実について

21  被告人会社の平成四年四月期の法人税確定申告書一綴(平成八年押第一五号の1)

22  脱税額計算書(1)

判示第二の事実について

23  被告人会社の平成五年四月期の法人税確定申告書一綴(平成八年押第一五号の2)

24  脱税額計算書(2)

25  欠損申告額調査書(22)

判示第三の事実について

26  被告人会社の平成六年四月期の法人税確定申告書一綴(平成八年押第一五号の3)

27  脱税額計算書(3)

28  繰越欠損金控除額調査書(23)

(法令の適用)

被告人株式会社四国車体について

罰条 法人税法一五九条、一六四条一項

併合罪の処理 平成七年法律九一号附則二条一項本文により、同法による改正前の刑法四五条前段、四八条二項

被告人井上清臣について

罰条 法人税法一五九条、一六四条一項

刑種の選択 懲役刑(それぞれ)

併合罪の処理 前記改正前の刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重)

刑の実行猶予 同法二五条一項

(量刑の理由)

一  本件は、被告人井上が、平成三年五月から同六年四月までの被告人会社の三期分の法人税合計四九四七万三〇〇円を、売上除外の方法により脱税したという事案であり、脱税額は多額である上、ほ脱率も高率であり、被告人らの刑事責任は重大である。

二  被告人井上は、法人税の税率が高額であると感じ、真面目に法人税を支払うことが惜しくなり、その支払いを免れることによって、自己の財産を増やし、又、もし、被告人会社が製造した製品の欠陥がもとで損害賠償責任が生じた場合、その賠償責任にも対応する必要がある等と考えて、資金を留保し、その資金で預金をしたり、株式やゴルフ会員券を買ったり、貴金属類の購入、私的な旅行の費用にあてる等、個人的用途に費消したり、他に購入した土地建物のローンの支払いに充当したりしていたものであり、その動機に酌量の余地は少ない。

三  被告人井上は、被告人会社を設立した当初(昭和六二年)から、遠隔地或いは単発の取引相手への売上げを除外して、法人税を脱税することを続けており、公表分とは別に除外分の証馮書類を管理するとともに、除外分の業者から受領した手形は、公表分とは別の銀行口座を複数用いて取り立てるなどしていたもので、その犯行は、常習的、計画的であり、その犯情は悪質である。

四  一方、被告人井上は、当公判廷で、二度と本件のような犯行を犯さない旨を誓っていること、同人には前科がないこと、被告人会社は、既に、修正申告をし、法人税本税、同重加算税、同延滞税等合計約一億七〇〇〇万円を納付するなどしていること、製造物責任に対応できるような保険に加入していること、被告人会社の経理を担当している被告人井上の妻も、被告人会社について、税理士の指導を受け、適正な税務処理を行う旨誓っていること等被告人らに有利に斟酌すべき事情も存在する。

五  そこで、以上の諸事情を総合考慮し、各被告人に注文掲記の刑を量定の上、被告人井上に対して、今回に限り、社会内において、自力で更生する機会を与えることとし、懲役刑の執行を猶予することとした。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 被告人1罰金一五〇〇万円、同2懲役一年)

(裁判官 樋口隆明)

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